映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

セバスティアン・レリオ 監督「ナチュラル・ウーマン」2647本目

現実では知る機会の少ない、トランスジェンダーが「常識」の矢面に立たされたときに起こることを描いた作品。マヌエラはきれいで女性らしく忍耐強く、観客は彼女の窮地に同情してしまいます。でも多分、彼女のことを気味悪いと思う感覚って、一部の人にとっては、雷が怖いみたいな変えようがない感覚なのかもしれません。受け入れられない相手とは距離を保つのがベストだけど、夫の愛人が彼女だった、そして夫は彼女と暮らしていたある夜に亡くなってしまった、という状況においては、憎しみの相手として罵詈雑言をぶつけてしまうこともある。

入籍していなかった夫が亡くなったり病気になったあと、夫の家族とひどくもめて傷ついたっていう友人が何人かいます。トランスジェンダーでも不倫でもなくても。

「ロニートとエスティ」もこの監督の作品なわけですよ。どんなに深く愛し合っていても、世間というかコミュニティが決して受け入れない愛ってのがある。あきらめなければならない理由は、愛する人を必要とするのと同じように、人にはコミュニティも重要だからだ。まったく一人で生きていくことはできないから。

マヌエラは彼への愛を胸の奥に持ちながら、美しい歌を歌い続けるんだろう。

いや、世間に負けて愛を貫くのを断念する方がいいっていうつもりは全然ないんだけど、選択はその人自身がすることだから…。

うーむ、どうしてこう優等生的で通り一遍等な感想になってしまうんだろう…?私自身、いろいろ理不尽なことを目にしたり経験したりしながら、世捨て人になりきらずに漂いながら暮らしてるからかな~~。ままならないもんですよ、人生。

ナチュラルウーマン(字幕版)

ナチュラルウーマン(字幕版)

  • 発売日: 2018/08/07
  • メディア: Prime Video