映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アミール・“クエストラヴ”・トンプソン 監督「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」3332本目

簡単には言えない気持ち。すごくグッときてるんだけど、顔がしかめ面のままだ。感動したとか、問題意識を持ったとか、言うと薄っぺらくなってしまいそう。「もう一つのウッドストック」と並行させるのはピンとこない。ウッドストックにもし私がいても、かなりアウェイ感があったとは思うけど、こっちのイベントはもう、居場所がなくて自分が邪魔にしか感じられない気がする。それくらい、あまり知らない人たちの自宅の奥にいきなり通されたような親密さ。

ただ、スライがすごいっていう意味がやっと少しわかった気がする。マニアックな友人たちがスライを聴いてるのが大人っぽく思えて「どこが凄いかわからない~」と言ってる自分がバカみたいだなと長年思ってたけど、このブラックイズビューティフルな巨大フェスに白人のいるバンドでやってきて「Everyday people」をやるからスライなんだな。変わり者ほど自分は平凡だと言うのだ。誰よりとがった先鋭的な音楽を演奏してたのはむしろ他のアーティスト、スティーヴィー・ワンダーとかで、スライは抑えて抑えて、まるで自分の才能を聴かせない方がいいみたいにシンプルな楽曲に落とし込んでる。でもこぼれ落ちてくるこの才能。エキセントリックな天才として扱われることを拒んだプリンスって感じ。

とんがり頭に結い上げたニナ・シモンはやっぱり、ちょっと怖い。怖くてめちゃくちゃカッコいい。フィフス・ディメンションは確かにメロディアスで、ポップスの中でもプログレとかアース・ウィンド&ファイアとかにつながっていく複雑なコード進行や構成があったりする。「アクエリアス~レット・ザ・サンシャイン・イン」とか素晴らしいです。(他の人の曲とはいえ)B.B.キングはこの頃も、30年後だか40年後に日比谷野音(たしか)で見たときもエンターテイナーで大御所だ。ゴスペルのエドウィン・ホーキンスのボーカルの女性の爆発力もすごい。「マイ・ガール」を聴くと、ブラックミュージックばかり聴いてた頃のことをうっすら思い出すけど、もう薄れかけてる。グラディス・ナイトは今どきの原宿の若い子みたいなファッションですごく可愛い。「ピップス」のダンスがまた最高。

これを公開しようとして当時は挫折したという話。この映像をお金を出して見ようとする人がそれほど見込めなかったんだろうか。それよりむしろ、この映像が世界中に広まることでブラック・ムーブメントが盛り上がることへの危惧もあったかもしれない。

一瞬の輝き…と思うと、なんか泣けてくるなぁ。