映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

レジス・ロワンサル 監督「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」3375本目

<ストーリーに触れています>

劇場でも見たけど、U-NEXTで見直してみます。

劇場で見たとき私はけっこう盛り上がったけど、他の方々の評価は良くて「ソコソコ」くらいだった気がします。時間をおいて見直してみたらどうだろう?と思いました。

少しずつ原文を与えられて翻訳する場面は思っていたより短く、すぐに原稿が流出します。映画のちょうど真ん中あたりでもう、出版社社長が刑務所にいる場面が登場します。こんなに早かったっけ!…つまり、おおかた事実が出尽くして解決編に入ると思ってからが、長くて深かったんだな。初見のときは目を奪われて後半は時間を忘れてしまったという。私は犯人が誰かを明確に認識しながら見ているので、その人が犯人だと明かされる前にどういうふるまいをしていたかを辿るのが、すごく面白い。

刑務所での対決以降、犯人なのか犯人じゃないのかこの時点では確信がもてないその人は、複数メンバーを巻き込んだ壮大な原稿奪取~流出計画をとうとうと語ります。電車の中でスーツケースをすり替え~高速コピー機~渋滞にあってスケボー~すんでのところで乗車~ネズミを放って再すりかえ、このシーケンスは初見のときは完全に気持ちを持っていかれました。しかし刑務所の社長と彼の会話は警察が聞き耳を立てている。まだ何か大きな謎が、大きな犯罪が隠れているのでは…。

ここまでだとこの作品は「ユージュアル・サスペクツ」の仲間なんだけど、さらにさらに大きな転換を迎えます。人が初めて死ぬのはこの後…。

やっぱりすごく面白かった。大きな賞はなにも取らなかったけど、多分、30年後に「意外な結末の映画20」とかでこの映画を見つけて見た人は「こんな昔に、こんな映画が作られていたとは!隠れた名作!」って喜んだりしないだろうか。初見で欠点ばかり気になってしまった人ほど、結末を知った上で見直してみると、じわじわと良さが見えてくるんじゃないかな…。

ランベール・ウィルソンの鼻につく演技最高、”真犯人”が彼を追い詰めていくシーケンスも、ただ「凄い」。何千本映画を見ても、こういう作品を面白がれるといいなと思います。

あー、また見てよかった!