映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

溝口健二 監督「愛怨峡」3467本目

タイトルを「愛怨」まで入力してKINENOTEで検索したら、同じ頃に「愛怨」がタイトルに含まれる作品が他にもいくつかヒットした。昭和初期の流行語か?どういう時代だったんだろう。愛怨、愛と怨みのはざまが「愛怨峡」ですかね。

冒頭、クレジットと「昭和12年キネマ旬報日本映画ベストテン第3位」の表示の後から本編が始まると、タイトルは「峡怨愛」と右から左。雑音がひどいけど、ちゃんとトーキーです。

けっこう昔の映画も見てたつもりだったけど、主演の山路ふみ子の出演作品は、これが初めて。この人すごいなぁ。まず声がすごくいい。強く明るい、通る声だ。何があっても明るく強く生きていく、この映画の「おふみ」にぴったり。鈍感とかおバカさんというより、深い諦念あっての開き直りみたいな「しぶとさ」が感じられて頼もしい。舞台上で演じる漫才の、堂に入ったことといったら。漫談あり、三味線とアコーディオンの演奏あり、この頃の芸人さんは1組がずいぶん長い時間演じてたんだな。

トルストイの「復活」の翻案とKINENOTEの解説にあるけど、「愛怨」と「復活」という言葉はずいぶん違うよな。

ストーリーは古今東西どこにでもある、ぼんぼんと身分の低い女性との恋愛で、男は成長せず、女はぐんぐん強くなっていく。普遍的だから古く感じないという以上に、なぜか、一周まわって現代的に感じられる。山路ふみ子のたくましさが、自立した現代女性に見えるからかな。

とてもいい映画だったけど、なんといっても見づらい、聞きづらい。何かの基金で4Kリストアとかしてくれたらなぁ。

ところで浦部粂子はどこに出てたんだろう。このとき35歳だけど、おふみの母かな・・・?

愛怨峡

愛怨峡

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