映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アニエス・ヴァルダ監督「冬の旅」3548本目

やりきれない映画だった・・・

敬愛するアニエス・ヴァルダ監督の未見の大作ということで、やけに前向きな気分で見に行っったら、すとーんと突き落とされたような気持ち。

で、思い出したのは「ノマドランド」というより、2年前に渋谷区のバス停で起こった、女性ホームレス殴打殺人事件だ。あの事件を見聞きしていたらヴァルダ監督は被害者のそれまでの人生を知りたいと思ったんじゃないかな。テレビ局が取材をしていて、被害にあった方が若い頃に劇団に入って役者を目指していたことや、仲が良かった友達が彼女を探していたことを突き止めてた。彼女たちは誰にも頼らなかった。根城を作ろうとしなかった彼女たちに共通しているのは、強い人間不信・・・だろうか。

ニュースで過去の写真を見ても、バス停で彼女がどんな気持ちだったかは誰にもわからない。ワインで汚れて側溝で泣きべそをかいてた彼女の気持ちもわからない。それでも知りたい、と思って近づいていくのがヴァルダ監督なんだな。

人一倍、人を愛して、与え続けた人だと思う。その一方で愛の不毛を描いた。この作品をそのとき作らなければならなかったアニエス・ヴァルダ自身はどういう状態だったんだろう、どんな気持ちだったんだろう。ということが私はすごく気になるのです・・・。