映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ペドロ・アルモドバル監督「抱擁のかけら」3703本目

アルモドバル監督作品はほとんど見てるけど、この作品の内容がよく思い出せなかったので、また見てみました。

順番でいうと、世界に知れ渡った「オール・アバウト・マイ・マザー」より「ボルベール」より後で、今見ると色彩のコントラストが強くなり、画面構成が洗練されてシンプルになっていて、「ペイン&グローリー」へ近づいていくのがわかる気がします。ストーリーも、この2本は、映画監督がかつて愛する人をフィーチャーして撮った作品に対してずっと持ち続けている悔悟の気持ちが中心となっているという点が共通しています。

この作品のなかのペネロペ・クルスは実に愛くるしいけど、”愛される女”でしかなくて、二人の男の間を行ったり来たりするだけ。自分の出演作品を完成させたいという意志以外、なにも見えてこない女性です。アルモドバル監督の女性に対する意識をずっと知りたくて、観察してるつもりなんだけど、「ペイン&グローリー」ほどあからさまに男性俳優を使わず、自分の愛する人の象徴として彼女を用いたんだろうか。オードリー・ヘップバーンふうの可愛いアイコンのようなジャケット写真を見ても、そう思います。

この作品でも「ペイン&グローリー」でも、復活した監督が完成させたい作品そのものは、わずかに垣間見ることしかできません。それぞれの映画で、似てるところもあるけど違うアプローチで物語は展開していて、これもすごく美しく切ない作品なんだけど、やっぱり「ペイン&グローリー」のほうが完成に近い、という気がしました。

それでもアルモドバル監督は、何かびっくりするような美しいものや意外な展開を見せてくれるから、何度見ても飽きないな・・・。

抱擁のかけら (字幕版)

抱擁のかけら (字幕版)

  • ペネロペ・クルス
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