映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ロマン・ポランスキー監督「毛皮のヴィーナス」1294本目

面白かった。短編?というくらいの小品の印象だけど、二人の役者さんがすごく良くて、なんだかこっちも巻き込まれていきます。

敬愛するアメリノートンの「殺人者の健康法」もこれと同様、一室の中で繰り広げられる会話だけの作品で、片方が相手を追い詰めているつもりが、だんだん逆の立場になっていきます。(もちろん「毛皮のヴィーナス」のほうがずっと先。)

作品単体としての面白さもあるけど、これがかの有名なマゾッホの、"SM"の"M"の語源となった作品という史実も興味深い。Mに対してのSというのは、Mの嗜虐的な楽しみを最大化するために演技する役柄のことだ、というようなことをマゾッホは語っていたらしいです。SMって愛なんですね!(笑)

こないだ読んだ羽田圭介の「メタモルフォシス」は、SMクラブのさまざまな客について描いた笑える(たぶん)小説集でしたが、あれも考えてみればMの人が高いお金を払ってSをやってもらうという話だ。私はずっと、「Sの人はMでもあり、Mの人はSでもある」という、ノーマルの域を出ないSM観を持っていたんだけど、この映画や小説からは、Mというのが性の高みであるかのような印象だな。奥が深そうな世界・・・。

それにしても、あのポランスキー監督を30年近く飽きさせないこの女優、エマニュエル・セニエ。迫力たっぷりの女王様っぷりに感服しました。マチュー・アマルリックの風貌がどことなくポランスキーに似てることもあって、自作自演のような不思議な趣も感じてしまいました。