映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クリスティアン・ペッツォルト監督「東ベルリンから来た女」1503本目

原題は主人公の名前「Barbara」だけど、日本で上映するうえではこの邦題は必要だな。
2013年のドイツ映画。といっても映画の舞台は1989年のドイツ統合の9年前、1980年です。
一見したところ共産国というふうではなく、働く女性が主人公、舞台が病院の映画なのねって感じ。
ただ、彼女の表情が常時やけに堅い。アキ・カウリスマキ映画のカティ・オウティネン(この人大好き)みたいに普段から無表情なのかと思うと、そうではなくちゃんと意味があって、彼女は恋人との逢瀬ではちゃんと可愛く笑うのです。普段のすまし顔は、左遷されてきた田舎の病院での緊張によるもの。一見ふつうのドクターもののドラマのようにも見えるけど、密告者がいたり、矯正施設からの脱走者がいたり、いきなり家に調査が入って裸にされたり、という、見えない恐怖や緊張感がただよう世界です。

想像できない、そういうの。
ドイツなのに英語ができる人がほとんどいなかったり、メルセデスを外車のように珍しそうに見て、「あっちには暖房のついた車があるそうだね」。1980年にたとえば彼女が35歳だったとしたら、東しか知らずに大人になって仕事をして、この9年後に壁が崩壊することなどまさか想像もしていない。9年後、44歳の彼女は何を感じたんだろう、彼女の生活はどう変わったんだろう。それからさらに時間が流れて、映画が作られた2013年の彼女は68歳。彼女に子どもがいたとしたら、その子は東側の世界など想像できない大人になってるんだろうか。彼女自身は、自分の住む世界のこんな大きなシフトにどう順応したんだろうか、できなかったんだろうか。

しかし、最初は全然映画の世界に入っていけず、途中ググってあらすじなど読みつつ、つごう3回見ました。
3回目に、いい映画だなと思った。こういうとき、レンタルってありがたいんだ・・・。映画館だとうっかり寝ちゃったりするとどうにもならないから。

東ベルリンから来た女 [DVD]

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