映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジェームズ・フランコ 監督「チャイルド・オブ・ゴッド」3663本目

R.I.P.コーマック・マッカーシー。「ノーカントリー」も同じ原作者ということは、この作品も救いのないバイオレントな作品か、と思う。でも冒頭でこの主役レスリー・バラッドは「神の子」と呼ばれる。そうか、この人には障がいがあるのか。ということは、ノーカントリーの理由もわからず殺戮する殺人マシンみたいなのじゃなくて、現実の認知がそもそもゆがんでるんだ、ということがわかる。そこから、これはむしろ、タスマニア島で大量殺人をした,障がいのある犯人を描いた「ニトラム」に近い、と思いながら見る。

3部に分かれているこの作品で、第2部までの彼は、人の生死や清潔さにまったく無頓着な、欲望だけに動かされる、私たちから見るとおぞましい生活をしているけど、その中に獣のような倫理がまだ存在しているようにも見える。最初からずっとライフル銃を持っているけど、人間に向けて撃たない。でも第3部でとうとう彼は人間を撃ってしまう。前に手に入れた”死んでいる女の子”をまた手に入れたくなっている。彼は撃たれて捕まり、遺体の場所を教えると言って刑事たちを洞窟へ招き入れ、逃亡する。

原作では彼が病院で亡くなったあとに、地面に空いた穴の中から多数の遺体が発見されるらしい。その方がさらに同情しづらいな。一方、この映画からは監督の彼に対する「神の愛」みたいなものが感じられる。彼は普通の人間とは違うものとして生まれた、あるいは、彼の意志に関係なく後天的にそうなってしまった。彼は自然なのである、人間社会においては悪だけど彼はそういう動物なのだ、というような。

原作者はどういう人だったんだろう。一冊も読んでいないのに、映画化された2作だけではわからないな。今度、友人お勧めの「ザ・ロード」を読んでみよう・・・。