映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジュリアン・テンプル監督「ビギナーズ」3672本目

1986年の作品。

当時ミュージックビデオで人気だった監督が撮ったこのコマーシャルでエンタメな音楽映画を今なぜ見るかというと、デヴィッド・ボウイが出てるから、というだけじゃなくて、楽曲がすごく懐かしいから。当時映画は見てないけど、サントラを聴きまくってました。多分、田舎町にできたばかりの「貸レコード屋」でLP盤を借りてカセットに録ったやつ。映像で初めて見てみると、ガチャガチャと賑やかで入り込みにくいけど、どこか作り物っぽくて、みんな張り切っていて食いぎみにしゃべる感じとかが、80年代らしく思えて懐かしい。

楽曲はね、本当に素晴らしいんですよ。ボウイのタイトル曲「Beginners」の”ぱっぱっぱる~~”は頭から離れないし、パッツィ・ケンジットの「Having it all」もハスキーで素敵。(BBの再来と言われてたらしいけど、実際可愛い。OASISのリアムと結婚してたって今知った・・・どういう年齢差?って思ったけど5歳しか違わないのね)「Selling Out」を歌ってる渋いじいさんはスリム・ゲイラードだよね?シャーデー「Killer Blow」、彼女は華奢で優雅で、いつも最高にクール。スタイル・カウンシルの「Ever had it blue」も佳曲。「Quiet Life」も好きだったけど、あれキンクスのレイ・デイヴィスだったんだ。まだ若くて、あまり偏屈に見えない・・・私がキンクスを聴くようになったのは大学生以降だから、このときは見逃してたな。この曲って英国好きな人が好きな英国の典型みたいで、アメリカ映画なら絶対入らない一場面だな。・・・という風に、映画としての評価は低いけど、なかなかな音楽作品となっています。

この時代の楽観性って、1984年末のUKの「Do they know it's Christmas?」が典型例かな。クリスマスがいつだろうが関係ないよ、Feed the worldなんて俺たちは動物じゃないんだよ、という反発を今なら想像できるであろうミュージシャンたちも、当時は小さな町の幼い小僧たちだったんだな。そういう未熟さも含めて、目をキラキラさせて貧しい人を助けようという夢に向かっていた彼らがなんとも愛しく思えるのが、この作品なのでした。