映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ユホ・クオスマネン 監督「コンパートメントNo.6」3714本目

(この感想も、自分の若い頃の回想ばかりになりそうです。他人の個人的なことなんか読んでられるか!という方には、あらかじめお詫び申し上げます)

まず、この映画はロシアやフィンランドやエストニアのお金で作られたものらしい。舞台は1990年代で、その頃の曲が流れるのも嬉しい。冒頭はロキシー・ミュージックの「Love Is The Drug」、映画「ラブ・アクチュアリー」でビル・ナイが歌うクリスマスの歌、どこかで聞いたことのある「Voyage Voyage」。

主役ラウラがすごく普通の女性で、女優に見えない。フィンランドあたりの少し東洋系っぽい容貌だな、っていう印象はある。同室になる男性はもっと鋭い容貌で、私のイメージするロシア人っぽい。だからなんとなく、フィクションって感じがあまりしないですね。

知的であか抜けた教授の女性に憧れて、つきあっている留学生の彼女。完全に同性だけが好きなわけではなさそう。個室に男女二人なんてありうるのかしら・・・と一瞬思ったけど、そういえば私がシベリア鉄道に乗ったときも男女いっしょだったわ。乗車口が高いところにあって、スーツケースを持ち上げるのがすごく大変だった以外は、学生のころにいつも乗ってたブルー・トレインと同じ感じだった。ツアーで知り合った同年代の女4人で食堂車が閉まるまでビールや紅茶を飲んでしゃべりまくったっけ・・・(「さらばシベリア鉄道」を合唱したりもした、初対面なのに)(回想いったん終わり)あの列車と同じ、これもシベリア鉄道なんだな。こんな極北に向かって走る路線もあるのか。札幌まで延ばすっていう話もあったくらいだもんな・・・・。

さて、(また回想です、すみません)タイトルを見て最初に思い出したのが、寝台特急富士の2等寝台(カーテンで寝台を仕切るだけ)の向かいに、蒲田の工場で働く若者と乗り合わせたときのこと。私は英文学なんか勉強したりしてる真面目っぽい女子大生、彼は中学を出てずっと働いていて、なんかもう大人みたいで世慣れてた。私は女性に振られて傷心で乗ってたとかではなくて、ただ東京に向かってたんだけど、割と話がはずんで楽しかった。しかし彼が若干調子に乗って、夜中に「そっちの寝台に入ってもいいっスか」って言って近づいてきたときは、固くカーテンを閉じて寝たふりをしたっけ。。。若い頃って、いろんな出会いがあったなぁ。(回想終わり)

旅先、特に外国だったり、極地の厳寒のなかだったりすると、恋が芽生えやすいんじゃないだろうか。

しかしこのラウラ、普通の女性だけど席を替えてもらうために車掌にお金をつかませようとしたり、暖を取るために電話したい人を差し置いて電話ボックスにこもったりと、なかなか世知辛いことをします。そのくせ、目的地へのツアーの出発要件は調べないで来ている。昔はロシアにもLonely Planetとかなくて、現地に行ってから調べてたのかな。

寝台列車を一度下車して、リョーハ(男のほうね)の知り合いの家に泊まる箇所がある。「モスクワからムルマンスク」でルートをググると、直行便もあれば乗継もある。乗継はサンクトペテルブルク駅らしいので、この映画はそのパターンなんだな。

何十度もあるウォッカをがばがば飲んだり、猛吹雪の中を転げまわって遊んだりと、北ヨーロッパの人たちはタフすぎる。こういうのがなければ、割と普遍的な旅先の恋愛映画(「ビフォア・サンライズ」的な)なのかもしれません。

いい奴っぽい人にカメラ盗まれたり、いろいろ予見不能なことが起こったり、でもやっぱりまた旅に出よう、と思える作品でした。

コンパートメントNo.6

コンパートメントNo.6

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