映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

カール・テオドール・ドレイエル 監督「裁かるるジャンヌ」3745本目

1928年、ほぼ100年前の作品。

この映画、「午前0時の映画祭」かな?オンライン配信で最後まで見損ねて、そのままになっていました。長年、いつか見ようと思ってて。これくらい古い作品だとYouTubeや廉価DVDで見られたりするけど、画質がひどかったり日本語字幕がなかったりするし。・・・U-NEXTでリストア版が見られるなんて、本当にありがたいです。

しかし間をおいて見てみても、なかなかキツイな。今撮影したばかりみたいに、くっきりと肌のきめまで見える大写しの映像。「絶望とは何か」や「人間はいかに残酷なことをしてきたか」を映像で記録しようとしたんだろうか。神や教会や正義の名のもとに、人が過去にどれほどの残虐なことをしてきたか。人間には憎悪の感情があるけど、うまくはけ口を見つけられる人は多分少なくて、いわれのない弱いものにぶつけてきたんだと思う。私たちはおそらく、加害者の子孫なんだ。生き延びて遺伝子を残していつかまた自分の子孫がこんな行為を働くくらいなら、私の代で絶えてもいい、という気持ちになる。

それにしても、この俳優たちの演技力はすごいですね。人間の演技というものは、100年前も今も同じだ。なかでも主役のジャンヌを演じたルネ・ファルコネッティ、舞台女優だというけど、ほぼ一人芝居のようなものだ。この時代に、映画のためとはいえ髪をまだらに刈られることは大変な恥辱だったんじゃないだろうか。

この重さ、シリアスさ、イングマール・ベルイマンやルイス・ブニュエルが描こうとした宗教にも通じるものがあるんでしょうね。人間は憎悪のはけ口として今までどれほど宗教を利用してきたんだろう。神様にもし本当に会ったら、顔向けできる人はどれくらいいるのか。

・・・と神妙な気持ちでいるのに、頭のどこかで「always look on the bright side of life…」と「ライフ・オブ・ブライアン」の同様の場面の歌が聞こえてくる・・・やめてくれ、まじめに見てるんだから・・・

ちなみにジャンヌ・ダルクは15世紀の人だけど、教会のよる復権が行われたあと、フランスの聖人の一人として認定されたのは1920年らしいので、この映画は歴史ものというより、盛り上がっているときに作られたタイムリーな作品ってことですね。

いやーそれにしても、最後の一連の映像は迫力がありました。だんだんジャンヌを狙ったカメラは遠くなり、彼女を正面ではなく横や斜めから写す。処刑をおそるおそる見ていた群衆はその残虐さに激高して暴動が起こる。人間心理のいろいろな面をよく描き切った、執念深い名作でした。