映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジャン・リュック・ゴダール「イメージの本」2506本目

巨匠がわかる人だけがわかればいいと思って、自分の大事な映画の断片をたくさん集めて作った宝物。「コヤニスカッツィ」とかテレンス・マリックの映画とか「イントレランス」の仲間。って感じでした。巨匠つっても若いころは自意識過剰の気取り屋だった人が、監督を続けて80代になると巨匠って呼ばれるのかな。なんか不思議な気もします。

初めて映像編集ができるようになった専門学校生が、マックのFinal Cutか何かで卒業制作に作った短編。…と言われたらそうかと思ってしまったかもしれない。それにしては含蓄があってなんか神の啓示を受けて作ってしまったのかなという気もする。こんなに古今東西の作品を好き勝手つなぎまくった映像なんて、授業の一環として著作権法上の除外規定を適用するか、権利処理になんぼでもかけられる巨匠以外考えられないし。

(ときどき思うんだけど、映画監督といえども、この映画でコレクションされた作品を全部見て知ってる人ばかりではないだろうなぁ。知識だけでやる仕事じゃないもんね。

つなぎがスムーズじゃない、というような部分がちょっと正規上映作品として信じられない。白黒の映像はそのままだけど、カラー映像はみな独特の色彩処理をほどこされていて、色相カーブを見たらどっちかにすごく寄ったような、現像ミスみたいな映像。でも、バカにしてるんじゃないんですよ。映像を作りたいと思うような人が、作りたいものはもしかしたら、20歳の小僧も巨匠も同じで、それが作品として通用するのは巨匠だけなのかもしれません。

こういう古今東西の名作をつなぎ合わせた映画って、使われた素材を全部知ってるのがベストなんだろうけど、そこまで見てない私がどれほど製作者の意図を理解できるだろう?「山椒大夫」も使われてて、いくらベネチア映画祭で受賞したといっても昔の日本映画の一場面を見てそれとわかるヨーロッパの人もそんなに多くないだろうから、全部知ってることまでは観客に期待されてないんだろうな。でも全部知らないと意味は伝わらない。あの場面が、安寿が厨子王を逃がしたことで山椒大夫の手下につかまって、これから拷問されて殺される、ということがわからないと、ナレーションの「残虐な行為」という意味は、なんとなくしかわからない。つまりこれは巨匠が自分と、わかる人だけがわかればいいという前提で作った作品ってことだ。巨匠が、自分が感銘を受けた映画の、心に残った部分をたくさん組み合わせて、自分が言い残したいことを語らせた映画なんだな。ぼんやりとしか私には伝わってないと思うけど、面白いことする巨匠のおじいさんだなぁという気づきがあったのでよかったです。

イメージの本(字幕版)

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  • 発売日: 2019/11/02
  • メディア: Prime Video