映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

伊東英朗監督「SILENT FALLOUT」3829本目<KINENOTE未掲載>

現状、上映会でしか見られない2023年制作の自主映画。1950年代以降にアメリカやヨーロッパ、ソ連や朝鮮半島で行われてきた原爆と水爆実験による、知られざる被ばくの実態をしずかに追った作品です。わざとらしい帰責が感じられず、家族や友人たちが一人、また一人と体のさまざまな部分のがんを発症して、生存したり亡くなったりしてきた経緯や、その方々が、今思い返すとあれが実験の瞬間だったという状況を語る場面が淡々とつながれています。

ユタ州の女性医師が代表となって、アメリカ中、世界中(一部日本からも)の子どもたちの抜け落ちた乳歯を集めて、徹底的に残留放射能を調べたプロジェクトを追う映像は、コンテンツがあまりに力強いので、感動的な場面を排した作りでも十分すぎるほどインパクトがあります。

直接関係ないけど、ユタ州ソルトレイクシティってモルモン教の本拠地で有名ですよね。教団全体として声を発しても、US議会には届かないのかな。

奇しくも、昨日「日本原水爆被害者団体協議会」の2024年ノーベル平和賞受賞が報道されたばかり。彼らが地道にコツコツと世界平和のために活動してきたことは、今までもしみじみと尊敬の念を持っていましたが、受賞の場面を見て、5秒くらいたってから涙がポロポロと出て来ました。初めて、彼らが本当に汗や涙を流しながら、自分たちを守ることもせずに、ひたすら、後に来る人たちのために身を削ってつなげてきたものが、突然私にも見えたようで。今年世界でたった一人または1つの団体だけに捧げられる賞賛に、彼らは値するのだと、やっと世界が気づいたということが、胸にぐっときてしまいました。

アメリカ南西部の砂漠で行われた核実験の雲は、みごとに北米全土を何度も何度も覆ったようでした。敵に落とすために作った兵器による自爆行為、といってもいいのでは?他の国による実験の放射能が日本にもたくさん降りました。世界地図を見ていると、誰も生き残れないのかなという気さえしてきます。人類というサルの一種が、驕って愚かにも作り出した自滅の毒。絶滅危惧動物、レッドリストの筆頭が人類で、まだ誰も気づいてないだけだったりして…。(それとも、気づいたノーベル賞選考委員が、切羽詰まって平和賞を被爆者団体に授与したんだろうか)

現状、上映会を開くことでしか見られない作品ですが、「アジアンドキュメンタリーズ」のようなコレクションには出してくれてもいいんじゃないかな?と思ったりしますが、映画がコンテクストのないところで一人歩きして語られることを望まないのかもしれませんね。私は見られてよかったです。

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