映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クエンティン・タランティーノ監督「イングロリアス・バスターズ」3830本目

タランティーノ監督作品を片っ端から見直してるわけですが、これはけっこう苦手かもなぁ。というのは、軍服の人たちが人を殺す場面は、見ていて苦しいから。たとえナチスであっても、”ショッカー”みたいな下っ端の人たちにいい思想も悪い思想もなく、善だろうが悪だろうが、何にでも転ぶだけの人たち、つまり、私たちの多くと同じ一般庶民なのかな、とふと思ったりするからかな。

「国民の誇り」=「民族の祭典」だよね。オリジナルは「Festival of Nations」(とBeauty)でこの映画では「Nation’s Pride」らしい。うまいなぁ。シンデレラのガラスの靴みたいに、現場に残した靴を女優に履かせてみる場面も。クリストフ・ヴァルツ、やりたくなかったかもしれないけど、相手を追い詰める役が本当にうまい。そもそも、映画のフィルムが極めて引火性が高いことを利用するというアイデアが卓越している。

しかしやっぱり、不穏な気持ちが続く。自爆攻撃的な奇襲もちょっとムズムズするし、映画館ごと焼き尽くすというのは、いくら非情な敵といっても地獄絵図だ。負の連鎖。ナチスがユダヤ人を攻撃し、イスラエルがパレスチナを攻撃して…どこまで続くんだ。世界はマハーバーラタなのか。(報復に報復が続くインドの長大な叙事詩らしい。昔ちょっとだけ読んだ)こういうの見ると、私で報復を止めて欲しいから、いいよその弾を受けよう、とか思ったりする。私自身のうらみつらみはなかなか消えないけど、あまり血が流れないならそのほうがいい。これは自殺願望とは違うんだけど、人に共感される気はしないな。

次は「ジャンゴ」行きます。