映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

翁長裕監督「Blankey Jet City 『Vanishing Point』」245本目

2013年公開作品。1990年から2000年まで活動したロックバンドのドキュメンタリーです。

私はファンクラブに入っていたほどこのバンドが好きだったので(別にグッズを集めたりするわけじゃなくて、入ってないとチケットが取れなかった)、およそ客観的な感想が書けると思えません。こういう映画をファン以外の人が見ることがあるのかどうかもわからないけど、シネクイント渋谷のレイトショーは、こんな時間なのに半分以上埋まってました。

ドキュメンタリーといっても、監督自身の思い入れの強さが伝わって来て、まったく初見の人に理解させ共感をもたらす一般むけ映画とはいえません。でも私は、このバンドのどこが素晴らしくて、でもなぜ解散しなければならなかったかを、この映画ですごく納得しました。

Blankey Jet City = ボーカル、ギター、作詞作曲の浅井健一ベンジー)、ドラムス中村達也、ベース照井利幸

ベンジーは好き嫌いは分かれるけどギターの達人で、独自の解釈によるアメリカンテイストのぶっ飛んだ楽曲を作る、一種天才的なミュージシャンです。言葉づかいはなんかへんだけど言ってることは正しい。私はずっと、彼はマイペースですこし偏屈な芸術家肌の人だと思ってたけど、彼は神経がまいっちゃうだろうと思うほど他のメンバーをいつも気づかい、ステージ上に調和をもたらしグルーヴを引っ張り、名実ともにリーダーだったのでした。

インプロヴィゼーション・ドラマーの達也は、自分の内面をぶちまけるような激しく魂のこもったドラムを叩く人で、その時の感情や精神状態、体調やテンションによってまったくプレイが変わってました。だから、最高のプレイのときは神がかっていて、生きててよかった!と陶酔するようなものすごいライブになります。

ベースのてるちゃんはまっすぐな男で、常に変わり続ける仲間の気分にうまくつきあっていけない。彼はほかのメンバーたちの、というか実質的には達也のテンションが上がるのを待ちわびていて、いざそれが始まるとバンドは一体化します。

彼らはライブでいつも即興のセッションをする。同じCDを100回聴くと、初めて聴いたときに走った稲妻はもう走らないけど、プレイする彼らはなおさらそうだったんでしょう。名作もたくさんあるけど、完璧なCDの完成を最高の目標にするバンドではなくて、一体になってすごい演奏をすることが最高の目標だから、辛い場面が続くことになって消耗してしまったのかもしれません。

ロックのマジックは、不協和音スレスレのスリリングなハーモニーです。
奇跡みたいなもんです。

奇跡に出会えたことに感謝。もうすぐ今の浅井のライブです!以上。