映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

吉田大八 監督「紙の月」1142本目

テレビでやった原田知世バージョンがすごく良かったので、映画はなかなか見る気になれませんでした。
宮沢りえは、いいけどカメラの前で裸になれない大人になってしまった気がして、少し物足りないんじゃないかと。

実際映画でも、コートの襟をきちきちに詰めてるかんじが窮屈なんだけど、それがこの映画ではそれらしく見えます。銀行で働いていて夫から愛されていて、愛人からも愛されていて、それでも心はどっか閉じてるような。

テレビバージョンでは、さんざん尽くす原田知世が健気で、若い子に走る若い男(満島真之介)が薄情に思えたけど、こっちは普通の若い男(池松壮亮 )が宮沢りえにスポイルされて緩んでいくことが、妙に説得力があります。監督に力があるなぁと感じさせます。映画版のテーマは、「罪に走る気持ち」じゃなくて、常に誰の心にもある弱さ。映画の方が人間に血が通ってる。がっつり見応えを感じます。

主人公の高校時代の友人たちも出てこない。小林聡美の”お局”OLもお堅いだけじゃない重みがある。
逆に宮沢りえは、お堅くよそおってるけど奔放さがこぼれ出てくるような、ぐずぐずな危なさがある。そう考えると、原田知世はどこまでいっても白くて、宮沢りえのほうがじんわりと重い。

宮沢りえ小林聡美、曲がり角を曲がった人生と曲がらなかった人生。
映画を見て初めて、このお話は、”平凡な日常”から飛び出すお話なんだと気がつきました。テレビ版のラストは不安で弱々しかったけど、開き直った宮沢りえ梨花には野生の強さがある。
うーん、面白かった。

音楽もすごーくいいね。ベッドシーンに隙間なく流れ続けるロマンチックな音楽も、ラストのニコもとてもいい。
ところで大島優子、賢くてあけすけな若い女の子の役をすごくうまく演じてます。この子やるなぁ。