映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

原恵一 監督「かがみの孤城」3775本目

すっかり原作を読んだ気になってたけど、実はどこかであらすじを見ただけだった。それだけで足りる部分もある。足りなかった部分は、この子たちの痛みをどのように丁寧に描いているか、という点で、見てよかったと思います。

過去にじゅうりんされた記憶は消えることもなく、昇華したり上書きされたりして幸せになることもないんだろうか。それとも、人間のそういうキズって、相手に倍返しとか十倍返しとかすることで心底スッキリすることもあるんだろうか。ということを最近ずっと考えているんだけど、完璧にゼロにすることやプラスにすることは、実は無理なのかも、と思ったり。幼い頃にそういうキズを負ってしまった人のその後の一生って長くて、それでも生きていこう、楽しいことや嬉しいことを増やして、消えないまでも幸せな時間を送らせてあげよう、と自分で自分を励ましたり持ち上げたりして、なんとかやっていくしかないのかもしれない。他にもたくさん、そういうキズや痛みを取り上げた作品はあるけど、この映画は安易なカタルシスに逃げたり、一気に世界を変えたりせずに「もう一度学校へ行く」という現実的なところに落ちつけたところが、誠実だと思います。

少年少女が命がけの冒険を余儀なくされる作品は多い。この作品では”狼に食われる”という恐ろしい罰ゲームがあるけど、クイズに取り組むのはデッドライン直前だし、パズル要素は少ない。やっぱり、これからの時間を完全にあきらめそうになっている子どもたちにもう一度歩き始めてほしい、という作品なんだと思います。少なくとも私には、著者や映画を作った人の思いは伝わってきました。

かがみの孤城