さっき見た1951年「めし」では若夫婦、1960年「娘・妻・母」では中年のやもめ役だった上原謙の息子、加山雄三が、1967年に主役の若者として出演しています。「若大将シリーズ」がまだ作られていた時期の、精悍な好青年を絵にかいたような加山雄三が、不可抗力の事故であやめてしまったのが、司葉子の夫。悲劇の始まりです。
誠実な彼と貞淑な彼女が惹かれあうのは時間の問題だったのだけど、「世間体なんて関係ない、自分たちの未来が問題なんだ」という彼の発言は、最後にむなしく思い出されます。問題なのは世間体じゃなくて、自分の胸の奥の深くて決して治らないキズなのでした。
同じ事件を共有する二人だから通じ合った部分もあるんだろうな。愛し合うということは、いつも美しかったり輝かしかったりするとは限らなくて、傷をえぐりあってしまうこともある。本当に忘れるには、バングラデシュと日本くらいの距離を置いて、それぞれ新しいことを始めるしかなかったのかも。
急いで見たほかの2本も、表面的には穏やかだけど愛をあきらめる痛みを伴った名作でした。成瀬巳喜男ってどうしてこう、女心がわかる人だったんだろう…。