陰のある金髪の女性。地味な工場の仕事を、不必要なほどまじめにこなす彼女。4年間無遅刻無欠勤で、山のように買いだめた石鹸で何度も何度も手を洗う彼女。この役を演じているサラ・ポーリーは同じ監督の「死ぬまでにしたい10のこと」の彼女だ。無理にでも休めと工場長に呼び出されて、仕方なく休暇に出かけます。(4年間休まないなんて日本では目立たないと思うがな)
彼女はたまたま看護師を緊急に探している男(「おみおくりの作法」のエディ・マーサン)を見かけて、「私は看護師です」「火傷の手当てには慣れています」と言う。彼女の英語はぎこちない。
彼女が看ることになる、油田の事故で大やけどを負った男を演じるのはティム・ロビンズ。彼の出る映画が面白くないわけがありません。
海上に突き出した油田採掘場の造形がしびれます。現役の頃の軍艦島みたいだけど、工場みたいな建物が細い数本の脚だけで海の上に突っ立ってるのが。
英語だけどスペインの映画なので、おなじみの人たちも出ています。シェフのハビエル・カマラも英語をしゃべってます。
火傷の男が「コーラ」とよぶハンナ看護師は終始無表情だけど、彼の軽妙さに少しずつほぐれていきます。彼女は別の作業員から彼がけがをした経緯を聞き、彼自身からも何が起こったかを聞くことになります。そしてとうとう彼女自身も口を開き…。
彼女は片耳が難聴なだけで、目立った外見上の傷はありません(ぱっと見では)。若くて美しく、強く健康に見える彼女がとうとう彼にも言えなかったことが、最後の最後に明かされます。
語り口が繊細なんですよね。誰も攻撃せず、そっと、そっと、伝える。アルモドバル監督だとわざとすぽーんと投げてよこす球が、彼女の場合転がしてくる、みたいな感じ。この映画の中心はクロアチア内戦のむごさに注目を集めることではなくて、蹂躙された過去をもつ女性が生き延びて、生きていくということだから。
コイシェ監督の映画なら、見ても傷つかないと思える。いい作品に出会えてよかったです。