RCサクセションの大昔の名盤と同じタイトルだな。あれも孤独を感じさせる名作だったけど、これもまた全く違う観点で素晴らしい。
どう素晴らしいかというと、トム・フォードの作品って「ノクターナル・アニマルズ」もそうだけど、徹頭徹尾が彼の妄想によるもので、想像力が果てしなく膨らんで、それを妥協のない美意識で映画という形に完成させたものなんだ。コリン・ファースの英国紳士の佇まいやブリティッシュ・アクセント、彼が象徴する英国的なすべてのもの。ジュリアン・ムーアの崩れた母性のような豊かさとはかなさ。マシュー・グードの秘めた太陽みたいな情熱。ニコラス・ホルトの少年のような知性。(サリンジャーを演じたのが彼だったね)監督が愛する、彼らのなかの美を、自分の好きな時代、好きな設定で妄想する世界のなかであそばせる。なんか昔の貴族のあそびのような映画だと思う。
監督の自分の体験をそのまま映画化したとは思えない。愛する者に去られたとき、彼が愛の絶頂期に事故死したとしたら?命を絶とうと決意したときに、もう一人の素晴らしい少年が現れて「先生、泳ぎに行こう」と誘う。・・・みたいな妄想。
タバコをうっかり濡らしてしまう事件も、教え子が家の近所まで追いかけてくる事件も、これが男女間だとなんかイヤらしくなりそう。この学生はゲイではない(少なくともその自覚のない)少年だし、二人は結ばれたりしないから、最後まで少女マンガみたいに清潔なんですよ。なんというか、遺伝子上は男性の人による麗しきBL映画でした。
私は一つの美意識が徹底しているものが好きだし尊敬する。トム・フォードの徹底ぶり、素晴らしかったです。