映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

新海誠 監督「すずめの戸締まり」3753本目

これ見てなかった。テレビで映画を見るのは久しぶりだけど、たまたまノーカットで放送してたので見てみます。

ハッピーな学園ものみたいな登場人物たちで始まるけど、新海誠だ(天気の子以来だから、なんと5年ぶり!)。そこまで楽天的ではないだろう。と思っていたら、タルコフスキーの「ストーカー」みたいな水浸しの廃墟がでてきた。・・・この監督、他にも水びたしの映画があった気がする。新宿御苑でも雨が降ってたな。

すずめの声は、「ミステリと言う勿れ」のあの少女か。あの映画ではちょっとわがままで幼い女の子になりきっていたけど、この映画では初々しくて勢いのある少女そのものだ。なかなかのものだな~。松村北斗も、まだ少し青いきれいな若者らしくて良いです。

途中から、全体のトーンが重いなと感じる。もしかして・・・と思って確認したらやっぱり、この作品には川村元気プロデューサーはいない。日本中を走り回るけど、なんだかどうも世界が狭い。出会ったばかりの美少年と運命のように命がけの旅をする。家族のことも忘れて、いきなりの二人だけの世界だ。この世界の狭さに説得力をもたせて、日本中、世界中のオーディエンスを引き付けようという強いエネルギーがない。多分こっちのほうが、本来の新海誠監督の世界なんだろう。私が毎回、「そんなお前の背中をバッチーン!と叩きたくなる」とか感想に書いてしまうやつ。

戻ってきたんだな・・・この世界は川村元気のいる世界より、さらに純粋で、はかなくてきれいだ。元気のおかげで、新海監督の世界を知ってほしかった観客に十分リーチできて、この作品も大勢が見て高く評価している。これはこれで良かったんじゃないかな・・・。

狭い狭い世界のなかで、国の未来や大勢の人の生死が決まる。決めるための行動は大義名分ではなく、あくまでも目の前の人のため。好きになった人を守り、彼を石にした猫を葬ることにためらいはない。(というか、そういう判断を誰でも毎日少しずつしているので、すずめが悪いヤツだと決めつけるものでもない)

この大きな判断は、なくてもいいかも。次はまた新宿御苑で完結するような小さい世界を描いてみてほしい気もします。