映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フリッツ・ラング監督「死刑執行人もまた死す」2595本目

 図らずも「ジョジョ・ラビット」に続いて見てしまった。ジョジョラビットの設定は1942年、この映画の「制作年」は1943年。

「死刑執行人」というのは、そのあだ名を持ったかつてのナチスの官僚ラインハルト・ハイドリヒ(実在の人物)。冒頭ににやけて歩きながら登場するこの男の感じの悪いことといったら!彼らがドイツ語を話してるのもリアルで震えます。フリッツ・ラングの映画ですもん。相当人に恨みを買ったんだろうなという説得力のある演技。

ハイドリヒはチェコの反ナチ団体によって暗殺されます(史実)。一瞬、歓びに沸く市民たち。でもこのときまだ1942年。これはナチスを刺激したに過ぎなかったのかもしれません。

この映画がユニークなのは、まず、チェコの人たちが蜂起して反撃し、ナチスの重鎮の暗殺に成功したという稀有な勝利を描いていること。でも、「二重スパイ」のチャカを見事に市民たちが口裏を合わせて無実の罪に陥れていくのは、けっこう恐ろしいです。今なら、このくらい凡庸で人道的なところもある男なら生き延びさせることが多いのに、仕返しとはいえ集団リンチみたいになっていくのが怖い。

高潔なお父さんも助からない。「これは終わりではない」と訴える映画を撮れるのは、ドイツ人だったフリッツ・ラングがハリウッドでアメリカ人として暮らしてるからです。今こうやって残っているのが、ナチスや日本の戦意高揚映画じゃなくてこの映画でよかったです。

死刑執行人もまた死す [DVD]

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  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: DVD