映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アキ・カウリスマキ監督「ル・アーヴルの靴みがき」462本目

一見無骨だけど、たぶんこれは「とてもかわいい映画」だと思う。

男は街角の靴磨き。
彼自身がはく靴は、彼が寝た後にその妻が磨く。…この場面がいいですね。

妻は北欧からの移民。演じてるのは、「過去のない男」で、一見お堅いけどあたたかい女性の役を演じたカティ・オウティネン。彼女の独特の無表情、これが北欧的なのかな。0655/2355の歌に出てきそうなかんじ。

主役のアンドレ・ウィルム、とてもいいです。どういいかというと…ほかのヨーロッパの俳優さんにもいえることだけど、変なヤマっけがまったくない。自分の居場所があって、半径数キロの小さいその世界に足りている。大事にしている。自分と同じように年老いた妻を愛しんでいる。私はちゃらちゃらあちこちに出かけて行く人間なので、こういう人に心底憧れます。

やり手でこわもてだけど、内心は情に厚い刑事を演じるのは、ジャンピエール・ダルッサン。彼も一見無表情だけど、精悍で熱いものを感じさせます。
(この一貫した無表情は、舞台がフランスだろうがどこだろうが、フィンランド映画ってことなんでしょうね)

ストーリーはいたってシンプル。
フランスのルアーブルの港にアフリカからの船が降ろして行ったコンテナの中には、密入国者たちが入っていた。
一人の少年が逃亡し、彼を街の靴磨きの男がかくまう。靴磨きの生活はシンプル、というか貧しい。男の妻が重い病気で入院してしまうが、彼は少年のためにチャリティコンサートを開いて、少年の目的地イギリスまでの密航費用を工面してやる…。

ていうか「かもめ食堂」とかと同じ世界、つまりこっちがオリジナルか。
この生活感がなんかすごくいい感じなんですよ。彩度の低いブルーの病室に、夫が買ってきた赤い花が3本くらい入った花瓶だけの装飾、みたいな。これが日本の女子に受ける。(でも「かもめ食堂」は雑誌オリーブ風でおしゃれすぎ)

リトル・ボブのコンサートの場面だけ、不自然なほど長いのは、監督が大変気に入っているからなのでしょう。実際とても良いです。(そして、とても小さい)

刑事が聞き込みに行った雑貨屋の店頭で「何か買って行きませんか?」と言われて買ったのがパイナップル。フランス語ではアナナス。フランス語の文法はよくわからないけど
刑事「アナナス?」=パイナップルをください
雑貨屋「アナナナス?」=パイナップルひとつね
って言ってたんだろうな。

こういう映画の評点が高いのは、好きな人しか見ないから、というのもあると思います。以上