映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マイク・ニューウェル監督「コレラの時代の愛」2402本目

美麗なタイトル。こういうところに凝ってる映画って好きです。イラストはそこだけだけど、力の入った作品だと伝わってきます。

この映画は、一人の無垢な少女に一目ぼれして、その後一生愛しつづけた男の話。原作はガルシア・マルケスで、舞台は彼が若いころに暮らしたコロンビアのカルタナヘという美しい町です。ガルシア・マルケスの作品にある、「百年の孤独」もそうだけど、長年にわたる忍耐強さ、執念深さ、重すぎる愛とかに圧倒されます。でもそれほどの圧迫感によっても誰かが狂気に走るわけでも、自爆するわけでもなく、海より深い愛がやがてフェルミナ(永遠に愛される女性)を包み込み、世界がフロレンティーノ(ハビエル・バルデム演じる執念の男)で満たされる。…そのくらい、すごいんだ。彼の愛は地球より大きい、ような感じ。この粘着をもってして大きな愛だと納得させられる演技ができる人は、ハビエル・バルデム以外に思いつかないです。

二人とも老けメイク・老け演技がとてもよくできていて、フェルミナの若い身体と老人になってからの身体の変化がすごかった。顔だけ後で合成したんじゃないかと思うくらい。実際どうやったんだろう?

フロレンティーノが強烈なので目立たないけど、フェルミナもなかなか気が強くて強情な女性です。まず拒否から入る。でも自分を守ろうとする野生のバラの棘みたいで、男たちが引っ込むことはありません。

フロレンティーノは600人以上の女性との関係をいちいちノートに詳しく書きつづる(それほどの粘着質の男)のに、一人の女性を愛し続けるというのはどうなのか、という感想が当然出てくると思うけど、時間ってのは結婚したフェルミナにも独身のままのフロレンティーノにも同じように流れるわけなので、フェルミナを横恋慕し続ける53年の間に通りすがる女性たちがいても、しょうがないんじゃないでしょうか。通り過ぎるだけの彼女たちのことも、それだけで忘れたくないから何から何まで書き留めるバルデム。

こういう情感、こういう人生。ものすごく偏った私のイメージでいうと、スペインなら決闘を申し込み、メキシコなら銃で相打ちになるけど、コロンビアだから誰も傷つけあわずに執念深く待ち続ける、とかね。(泣くまで待とうホトトギスか?)

ガルシア・マルケスの理解がすこーし深まったかなと思えた佳作でした。小さいけどこういう気づきがあるから、映画は面白い。

コレラの時代の愛 (字幕版)

コレラの時代の愛 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video