映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

黒澤明監督「白痴」3343本目

1951年の作品。すごく昔っぽいけど「羅生門」より後なんだな。黒澤明監督のこれより初期の作品ってほとんど見てないな…。

三船敏郎と森雅之が引き上げ船で出会う。タイトルの”白痴”は森雅之のことで、いつになくスマイリーな表情。知性派二枚目のいつものイメージと違って、本当にぼーっとして心の優しい男にしか見えません。船を降りて街角の店頭で見かけるのは原節子の写真。このあと、原節子をめぐる三船vs森+ほかの崇拝者たちの争いが繰り広げられます。(簡略化しすぎか)

なにより、原節子の悪女っぷりが最高にうれしい。常日頃、彼女はマレーネ・ディートリッヒやドミニク・サンダと同じゲルマン顔なので、強くて美しい悪女の演技が映えるはずだと思ってました。小津作品ではまるで岸恵子みたいなささやきで話すけど、地声は野太いよく通る声で、この映画では舞台みたいにしっかり発話してくれています。彼女のこういう姿が見たかった。世界の三船に負けないこの迫力、強さを全面に押し出しても汚れない美しさ。もっとこういう女王みたいな役もやってくれたらよかったのになぁ。どうしてあんなにはかなげな姿ばかりになったんだろう。

この原作は読んでないのですが、頭が弱くて善良な”白痴”の彼はフォレスト・ガンプであり、今の朝ドラ(カムカムエブリバディ)のオダギリジョーです。女、特に強い女が本当に必要としているのは、自分の弱さを支えてくれるこういう男性なんですよ。極端に走ると、「幸福なラザロ」、無垢な羊、神の子、という存在感へとつながります。

全体的にストーリーを追いづらいし、アクションでなく表情の演技が大きく、黒澤監督の作品のイメージと違っていつもより観念的(だってドストエフスキーだから)な感じでとっつきにくい作品でした。でも原節子女王が見られてうれしかったので、彼女が華やかな主役を演じてる他の作品も探して見てみます。

白痴

白痴

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