映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ベルナルド・ベルトリッチ監督「暗殺の森」2039本目

1970年のイタリア映画。

ジャンルイ・トランティニャンがイタリア語しゃべってる。口パクかな?ちょっと声が太い気もする。彼が演じるのは、ありていに言うと悪い男です。過去のひどいトラウマのために冷血な暗殺者になった・・・といっても、彼がそれで苦しんだという描写はほとんどなく、妻のことも”凡庸”であると陰で一蹴したりしています。その”凡庸な新妻”を演じているステファニア・サンドレッリは、アゴが割れててギリシャ彫刻みたいに端正です。グレタ・ガルボみたいな細眉がちょっと似合ってないな。ジャンルイの本命の女性を演じるドミニク・サンダは、名前は昔から知ってるのに彼女を映画で見るのは初めてじゃないかな。大きくて強い大人の女性、宝塚なら間違いなく男役、みたいな感じですね。大物感が強い。並べてみると、ステファニアとドミニクの恋愛の映画でもよかったんじゃないか、となんとなく思います。

この映画、暗い画面が印象的ですね。外からの光が部屋の半分にしか入らず、あとは影になっている中で語り合う男たち。フェルメールの絵の登場人物を入れ替えたみたい。ベルトリッチの映画って美しいから好きです。

でも複雑だな、気持ちの動きが。被害者から加害者、加害者から被害者。あるいは共犯者。筋は追えるけど、ファシズムを自分のこととして共感するのは、戦後生まれの私には難しいです。日本も日独伊同盟の仲間だったのに。

とりあえず言えるのは、ジャンルイ・トランティニャンは平凡ではないのに市井のさまざまな人になれる俳優ですね。いろんな役をやっても色が付かないのが彼の個性なのかもしれません。

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