映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

トニー・ジエラ 監督「キューブリックに魅せられた男」2657本目

これと「キューブリックに愛された男」は監督が別なんだ。制作国もイタリアとアメリカ。これを2つまとめてこんなタイトルで公開した日本の配給会社の担当者は、仕事がすごくできる人だろうなぁ。

なんとなく前評判?で、あっちは愛されてこっち(レオン氏)はこきつかわれて可哀想なのかなと思ってたけど、むしろ二人とも似てますね。二人とも愛されて、二人ともキューブリックを心底尊敬して全身全霊で尽くした。違うのは、ドライバーのエミリオはキューブリック作品を引退するまで見たことがなく、レオンの方は映画にほれ込んで映画の世界に頭の先まで浸ってたってことだ。

スティーブ・ジョブズがワガママだったという話を聞いたことがあるけど、完璧な作品を思い描く才能を持った人はそれを実現するための完璧な手足が4本だけじゃなく10本も20本も必要だ。才能を持ってしまった人は不幸と言ってもいいかもしれない。キューブリックの脳から神経がつながっているかのような「彼の一部」になれたことは、一人の人間の生きる意味として考えると、幸いなのかもしれない。

「キューブリック作品は驚くほど製作費が安い」って、この映画のなかでワーナーの人が言ってましたね。エミリオやレオンが悠々自適な老後を過ごせるくらいの分け前を確保してあげてほしいと思う一方で、彼らが欲しいのはそんなお金じゃないんだろうなという気もします。それほどの才能って今生きている映画監督の中にいるんだろうか?

朝から晩まで浴びるほど映画の恩恵を受けている私としては、こういう素晴らしい仕事をひたすら誠実にやってきた方々にこそ、尊敬と称賛をささげたいです。 

キューブリックに魅せられた男 [DVD]

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  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: DVD