映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

レア・トドロフ 監督「マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド」4047本目

最近、子どもの教育について考えることがあって、モンテッソーリ教育についてちょっと調べものをしていたところなので、こんな映画があると知って見てみました。

苦労したんだな~。世界は古今東西、保守的なもので、先駆を容認できる場や人は多くない。立派だな、こんな風に強くありたい、と思うけど、具体的にどういう工夫があったのか、今言われている「モンテッソーリ教育」がどのようなもので、どうやって形成されたかは、ほとんど取り上げられてませんでした。

特に知りたかったのは、障がい児だけでなくどんな子どもにも当てはめれる教育メソッド、という部分。これはマリアと彼女をとりまく人々の物語として意義のある作品だと思うけど、私の知りたい部分については別途自分で調べてみることにします。

 

ポン・ジュノ監督「ミッキー17」4046本目

面白かった。よかった、金持ちvs貧乏人という単純な二項対決だけの映画じゃなくて。

(「パラサイト」も面白かったけど、極悪のように扱われる富裕家族はあの映画では何も悪いことはしてなくて、努力して成功した人であっても金持ってたら攻撃していいのか、って思って、見ててちょっと辛かった)

この作品の、”クリーパー”と呼ばれる生物のキャラ設定は、いいところをついてます。ぱっと見キモい。でも構図としては新しい星を開拓しようとしているのが地球人で、彼らは先住民。ミッキー17を助けることすらしていて、悪い人たちではなさそうだ。ジブリ映画にいたいけな昆虫として登場しそうなキャラでもあります。ほんと面白いな、世界はダイバーシティを認めざるを得ないところにきていて、キモいから殺していいとか、殺されそうになったから殺していいとか、そういう弱肉強食の世界観ではもうエンタメが成立しづらくなっているのかも、と思ったりします。

それにしてもロバート・パティンソン、「トワイライト」では彼とクリステン・スチュワートの二人とも、二枚目キャラすぎて全然好きになれなかったけど、その後の映画の彼らは個性が強くて好きです。この作品でも、情弱で受け身だけど気の優しいミッキーの、なんともあいまいな笑い方。嫌いになれないキャラクターです。

ポン・ジュノ監督作品でもう一つ恐れていたのが、ソン・ガンホがいい人すぎるキャラで出てたらどうしよう、という点ですが、それもなくてよかった。この作品に登場する東アジア人はミッキーを裏切る彼の”親友”で、それでも情に厚く善悪がシンプルに決められないキャラなのでちょっと安心しました。

(平面的な二枚目や善人を嫌うのも、逆に知恵がつきすぎたイヤな映画鑑賞者になっちまったな、という気もするけど)

最後に”ミッキー17”っていうネーミングだけど、夢の国のネズミの人気者を連想するのは多分私だけじゃないんじゃないでしょうか。背後にある膨大な金銭や権力、一方でどんどん増殖させられて消費される小さなもの、という連想も生みます。

「パラサイト」は、私にはちょっと主張のトゲトゲが気になる作品だったけど、この作品は、エンタメと皮肉のあんばいが私にはちょうどいい作品でした。(「パラサイト」もほとんどの人も評論家もみんな認めてるので、いい作品なんだと思うけど)

ミッキー17

ミッキー17

  • Robert Pattinson
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松原信吾 監督「なんとなく、クリスタル」4045本目

これって「卒業」を意識した映画?

1981年作品、思ってたより昔だ。ちょうど姉の世代で、よく「JJ」とか買ってきてたんだけど、あの雑誌の表紙のモデルさんは豊かなロングヘアを派手に巻いてたので、かとうかずこは全然違うイメージだなと思ったものでした。原作がものすごく話題になってたけど、本を買って読むお金もないし、立ち読みしてみたら脚注に「JJ」に載ってるブランドがいっぱい書いてあって、めちゃくちゃわずらわしい。それより第一、その頃の私はトラッドよりデザイナーズブランドのほうがカッコいいと思ってたし、第一貧しいパンク少女だったので、バブルは遠くを通り過ぎる台風みたいなものでした。

それでも就職したらすぐ、自分の会社が「OLくらぶ」という番組に出ることになって、若手の私たちも駆り出されてスタジオに出向いた記憶があります。同期の可愛い女の子とキャーキャー言ってたところを一瞬抜かれてて、見た目は私もOLじゃないか、と思ったのでした。今ならその部分だけでもコピーしておくんだけど。紺色の制服着てたんだぞ!かみしもみたいなベストとか着てて。

当時の司会者は田中康夫と南美希子で、バブルどまんなか感があるけど、それより前からやってた「オールナイトフジ」に自分の大学の学生が出演したことのほうがインパクトが大きくて、「OLくらぶ」なんて地味なものでした。そういえばその前後もまだ、私は学生のときの仲間とパンクバンドなんかやっていたんだわ。あの頃の自分はオンオフの違いが大きかったな…。

しかしこの映画は、ショートカットのキュートな女性とワイルドっぽいミュージシャンが恋をして同棲して、別れるのか続くのか、というストーリーは「もう頬づえはつかない」みたいだけど女性側に特に自立心は育っておらず、ラスト二人で車に乗っている場面の意志の定まってないかんじは「卒業」を思い出させるものでした。映画の中ではブランドについては一切字幕は出ず(スポンサーの関係とかもあるのかな)、出るのは曲名だけ、というのも「卒業」を思い出します。

いろんな面で、強いインパクトを残さない作品ではありますが、かとうかずこ及びそのファッションがすごく可愛いのと、当時の東京のリッチな若者の生活ってほんとにこんな感じだったんだろうな~というのが民俗学的記録として残されているのが、今見ると面白く感じます。ひまなときに見てみて、追憶あるいは珍しもの見たさに浸ってみるのもいいんじゃないでしょうか。

 

 

ポール・トーマス・アンダーソン監督「ワン・バトル・アフター・アナザー」4044本目

面白かったー!

PTA監督はこういう風に、不可逆的運命論(※私は彼の映画は全部これがテーマだと思っています)の映画をエンタメとして昇華してくれたのか。

デカプリオは、すごく勢いがあるけどちょっと抜けた男を演じさせたら最高。無謬の男をやると逆に極悪感がきわだって、憎まれてしまう。まるで合言葉を思い出せないくだりが何度も何度もつづくの、最高でした。もうこの場面だけで見てよかった。革命を起こす理想主義の人たちの不完全さは、怖い革命映画じゃなくて、ドキュメンタリーを見ても切々と感じていたから。

ベニチオ・デル・トロの謎の貫禄、いい人なだけじゃない、妙に戦闘に強い、過去をにおわせるこの感じもいいです。

そしてショーン・ペン。最初、誰だろうこのおじいさんは、見たことあるけど…と思ってたら、あっ、ショーン・ペンだ。すごくいい俳優さんだと思ってたけど、この役も最高ですね。本心は自信のない威張りやの白人男性。彼の部屋が爆破される、みたいなエンディングでもよかった気がします(※注:マリア・ブラウン)。

タイトルが「戦闘に次ぐ戦闘」なので、爆弾が次々に爆発するとか、大きな戦闘が連鎖するとか、もっと大きなものを予想したけど、映画の中ではデカプリオがつぶやくくらいで、実際のところ「もめごとに次ぐもめごと」とか「こぜりあいが連続する」くらいの規模間のものもありました。でもむしろ、画面の迫力とかエフェクトの大きさとかに頼らないところがよかったです。

デカプリオの妻はテヤナ・テイラー、強そう!激しくて、かつ魅力的な革命家にぴったりです。彼らの娘を演じたチェイス・インフィニティ(名前が最高ですね)も、強いけど繊細で折れそうな年頃の女の子として、とてもよかった。

リコリス・ピザの、モディリアーニ(の絵)みたいな風貌のアラナ・ヘイムも出てましたね。真面目そうに見えるけど革命家。

これだけ映画を見てきて、テーマだけ見ても新規性を感じなかったのに、こんなに面白い映画がまだまだ作れると思えるのは、ほんとに幸せなことだなーと思います。

さ、もう一度見よう。(ありがとうVOD)

今敏「PERFECT BLUE」4043本目

改めて見てみると、名作だなぁ。

インターネットもまだ普及しきっていない1998年の作品。「推しの子」とか、汚されたり辱められたりするアイドルがテーマの作品は、この作品や実際のいくつものストーカー殺人事件を経たうえで作られた作品、って気もします。ベタ塗りの多い従来のアニメーションだけど、画質が上がると、絵が美しいなぁと改めて思います。AKBは2005年が最初だし少女時代も2007年。今のこの空前のアイドルブームを今敏は予想できただろうか?(できたかもなぁ、なんかすごい鋭敏な天才肌の監督だったから)

当時は今よりも、若い女性タレントをひどく蹂躙していたと思うし、その中で自分を見失って辞めていった人もたくさんいただろう。そんな世界のなかで、狂っているのは誰か?怪しい警備員?関係者たち?それとも本人?…前に見てるので犯人は知ってるけど、やっぱり独特の怖さがあります。

ああ、いい作品だった。4Kリマスターに感謝します。

PERFECT BLUE

PERFECT BLUE

  • 岩男潤子
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パウル・ネゴエスク 監督「おんどりの鳴く前に」4042本目

2022年のルーマニア映画。

ルーマニアってどんな国だっけ。第二次大戦では日独伊と組んでソビエトと戦っていて、つまり旧ソ連ではないんだけど、1989年の革命までは共産主義国だった、らしい。その前はオスマン帝国から”ローマ化”が行われた、というのが国名の由来。

映画を見始めたとき、言語がまったく耳慣れないので戸惑ったけど、よくよく聞いてみると発音はロシアっぽいのに、語彙に(私が勉強中の)スペイン語とよく似たものがちょいちょい混じってる。やっぱりローマ化された国なんだ…。

小さい平和な町の善良な警官、貧しいながらも懸命に生きる人々。。。でも人は生き延びるためには、犯罪行為を行うこともある。主人公がまだ代議士とか教師とかビジネスマンとかだったら、犯罪を糾弾するのでなく、救済のために行動を起こす物語ができたかもしれないのに。誰も幸せにならない、なんの未来も見えない結末に向かっていく。

「リトライ」ボタンを押せばまたすぐやり直せるとでも思っているかのような、直情的で後先見ない殺りく。捕まっとけばいつかやり直せたかもしれないのに。でもこれが人間。

ペキンパーね…。なるほど。そんな結末だからこそ、その場でたおれている全員に、人間のせつなさを感じて胸が詰まるんだな。主人公の存在感もあって、良い映画だったなと思います。

おんどりの鳴く前に

おんどりの鳴く前に

  • ユリアン・ポステルニク
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ダニエル・シュミット監督 「書かれた顔」4041本目

依然としてU-NEXTのテレビアプリが壊れているので、NetflixやAmazon Primeでしのいでいます。

これはアマプラのほう。ずっと見ようと思ってた映画の一つです。制作は1995年。今75歳ですが30年前なのでまだ45歳。そして登場するあまたのレジェンド、杉村春子、大野一雄、武原はん、(当時100歳超の現役芸者)蔦清小松朝じ、みなさん鬼籍に入られています。映画としてはそれほど評価されなかったようだけど、記録映像としてますます価値が高まってるんじゃないかと思います。

本人もインタビューで話してるけど、女のしぐさを男の自分が身に着けて動くのは、本来の女とは違う。おやまとか、ゲイとか呼ばれる人たちは、女とはいろんなところが違う。そしてそこがすごく惹きつける。彼らが何なのか知りたいけど、一生私にはわからないのかもしれない。

最近の玉三郎は見てないけど(生で歌舞伎を見たのはもう10年も前だ)、どんな美しいおじいさんになったんだろう。見られるうちに見ておかなければ…。

書かれた顔

書かれた顔

  • 坂東玉三郎
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