映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

深田晃司「LOVE LIFE」3936本目

ジャケットの木村文乃の呆然とした表情やタイトルから、アニエス・ヴァルダ「幸福」のような作品を思い浮かべて、見る前からなんだか暗い気持ちだけど、深田晃司監督は「よこがお」とか思い出してみると、人間っておろかだし、ずるいし、何にもいいことないけど、まあ明日も仕事に行くかぁ、という気持ちにさせる監督でした。この映画ではどう出るんだろう?

オセロで優勝って、将棋や囲碁みたいに有名じゃないけど、今まで生きてきた中で最高の栄誉だっただろうな。どんなに誇らしくて、圧倒的な勝ちだったんだろう。極端な転落にも見えるけど、本人にしてみればけっこうすごい一生だったのかもしれない。

敬太くんの父親がろう者であることは、敬太くんが手話で母親と話す場面があったのでわかりましたね。彼が来て場をぶち壊す。一見きれいに整えてたものが全部、ワヤだ。リセットだ。絶望しそうなところだけど、どこかスカッとするような。

元夫はその後も何度もいろんなものをぶち壊しながら物語を動かしていきます。夫氏は、妻が「私がいないと彼はだめなんです!」を言ったときに、あれ?これ聞いたことがあるぞと思い、「そういうことを言う君自身が彼に依存しているのではないのか?」と切り返すくらいの賢さが欲しかったな。

猫かわいい。そして、プサンの雨の中たたずむ木村文乃の憮然とした表情すばらしい。この場面の彼女を肯定できれば深田監督を好きになれるし、彼女や自分のしょうもない人生を肯定できる。

なにがあっても、ブチ切れてちゃぶ台返しばかりやっていないで、おそるおそるでも、周りの人たちとつながりつづけていれば、いつのまにかどこかへ行けるっていうことなのかもしれないな…。

面白かった。佳作でした。

LOVE LIFE

LOVE LIFE

  • 木村文乃
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